「僕が衝撃を受けたのは、禎子さんが亡くなったあと、ベッドの下から一枚のメモが見つかって、禎子さんが白血球、赤血球、血小板の数値をどこで見たのか、書き写していて、

自分の命が短い事を知りながら、それを家族に知られないように隠していた事や、母親にすがって泣いたのは一度きりで、それっきり一度も泣かなかった話を聞いた事だよ」

「そんな小さな子が、家族を思いやったのね」

「知覧の富屋食堂の展示物は、どれも胸が張り裂けそうになったよ。十代から二十代前半の少年達なのに、彼らの遺した手紙の字は素晴らしく綺麗だった。覚悟をした者にしか書けない魂の宿った文字だったよ」

「そう……」

「沖縄の平和の礎へは、何度も行ってるが、あそこから見える青い海は、まぶしいくらい輝いていてね、僕は言葉を失うよ……」

「お疲れさまでした……」

「いやぁ、仕事はこれからだよ。CNNに送るルポをまとめなくちゃ。だから、しばらくここへは来ないよ。……でも、片づいたら、ちょうど君の誕生日祝いだ!」

「えっ?」

「お祝いなんだから、日曜日に会おう。土曜日はお花なんだろ? 三十日の前祝いがいい? それとも、少し過ぎるけど、九月六日にするかい?」

「でも……」

「でもじゃないよ。約束したんだから!」

私は少し考えたが、二十代最後の日曜日を神矢と過ごしたいと思った。