【前回の記事を読む】田舎のおっもっしょいおっさんはもういない。美しい自然も消えた――それでも残したいものがある

読んでいただくみなさんへ

イチロウ君のこと

じゃ、名前はどうしよう? 岡 巌などというのは、まるで、磐座(いわくら)みたいだぞ、ガンコのハテナシみたいだ。この辺の地域で、そうさなあ、盆踊りでもあったなら、石っころを投げたら、三つも投げりゃ、その名前のヤツに当たるだろう、という、どこにでもいそうな名前を思いついた。「イチロウ君」である。うちの親父も同名だが、イチロウなどというのは、ムカシ人間にゃ、次郎、三郎、一子、末子、くらいな、ま、「適当な名前」なのだ。いっぱいいる。

くれぐれも……実在の人物だと、考えないようにしていただきたい。

「イチロウ先輩、す、すいません」

と、全国のまじめなイチロウ君に詫びると……

「オマエねえ、ヘンなことを書いたら、名誉棄損で訴えるぞ。いやいや、沼に沈めてやるわい」

と言う声がどこからか返ってくる。

「い、イチロウ先輩、そこでアンタが返してくるから、ああ、このイチロウ君は、“あのイチロウ君やな”と、近在のオヤジどもが勘ぐるんですよ。アタシのモノガタリの中では、正義の味方、悪をやっつけ、困っているバツイチのお姉さんを救う救世主って設定なんすから」

「どうも、オマエはいやらしいねえ。オレは、清廉潔癖にまじめに生きてるんだぞ」

というような、イチロウ先輩なのだ。

いい人は、どこまでいっても、いい人である。悪のカケラもないのだが、テレビの役者ほど、いいオトコじゃ、なぜかツマラナイ。そんな、イチロウ先輩に捧ぐのです。どうか……成仏してください。

「バカもの、ワシはまだまだ飲み屋のオネエちゃんを支えなきゃならんのだぞ。オマエ、先に逝って、向こう岸にも美人がいるのかどうか確かめてこいさ。ま、そんな世界がないとこだったら、地獄の閻魔さんに、可愛がってもらえよ。わはははは」

さても……正義のヒーローなのである。