【前回の記事を読む】明日は妻が来てくれる! 出張先でも会えることに喜んでいた夫、しかし酷く酔っぱらって帰ってしまい目が覚めると…

 第十一章 親友のお祝いと長期出張

【涼真編】

心臓の音がうるさい。静まれ! どんな事があっても、美樹の手を離さない! ああ~、どうすればいい? 焦る。

新幹線が遅く感じる。イライラする。家に着いた。美樹はいるだろうか。

こわごわ玄関を開けた。美樹はスーツケースに荷物を詰めている。何をしているんだ!

【美樹編】

今日は、涼真さんのマンションに三十分早く着きそうだ。喜ぶかな。ウフフフフ。

荷物が多くて大変だけど食事を抜くから、しっかり食べさせなくては。ふぅ~、やっと着いた。玄関を開けた。

えっ? 何? 女性の靴が……何? ゆっくり上がった。寝室を開けた。

涼真さんと若い女性がベッドで寝ている。血の気が引くのが分かった。来るべき事が来た!

でも、何か変だ。五十代の冷静さが出る。

涼真さんのスーツは脱ぎ散らかしているし肌着を着ている。女性はスーツをたたんで、ストッキングもたたんでいる。ブラウスも着ている。

几帳面な女性だ。そうじゃないでしょう! 何が起こっているの? 現実なの? 二度見た。許せない! 私と愛し合うベッドに若い女性が寝ているなんて。酷い! 涼真さん、バカじゃないの! 頭にきて、ドアを凄い力で叩いた。

ドン!

「涼真さん、この状況を説明して!」と、大きな声で起こした。涼真さんは、「何?」みたいな……ベッドの横を見て驚いている。私は自分でも分かるぐらい凄い顔をしているだろう。

冷静に作り置きのおかずを冷蔵庫に入れて、涼真さんが止めるのを振り払ってマンションを出た。

新幹線の時刻表を見る余裕などなく駅に向かった。運良く二十分後の出発便に乗った。 座席に座って悔しくて、悲しくて、振り切ってきて良かったのか後悔もした。言い訳も聞くべきだったのかな。

今日中に家に帰ってこなかったら……離婚もあるかもしれない。どうしよう! 仕事を辞めるべきではなかったのか後悔。一人でも生きていけたのに……。

車内販売のビールを買って飲みほした。目を閉じると先程の寝室のシーンが蘇る。嫌だ!  気持ち悪い。今までの生活が走馬灯のように回る。

運命のような出会い、たくさん愛してくれた事。年上の負い目はいつもあったけど実家へ行くと癒されていた。素敵な家族だった。

三時頃着いた。取り合えず出て行く準備はしておこう。