正面玄関前の緑地で海智は後ろを振り返り、自分が入院していた病院を見上げた。病室の窓ガラスに反射した日光が彼の網膜を刺した。
(一体この二週間は自分の人生にとってどういう意味があったのだろうか?)
深く考えようとすると逆にそれは実態を失くし手元から逃げてしまうように感じた。何か割り切れない違和感を感じて眩しい光から視線を避けた時に病院の東側の壁に設置された非常階段の入り口が目に入った。
「ちょっと、どこ行くの」
裕子が彼に声を掛けた。自分でも知らぬ間に海智の足は非常階段の入り口に向かっていたのである。
階段の入り口は金属製の扉が取り付けられているが、簡単な打掛錠で外からも内からも鍵なしで開けられる。打掛錠を何気なく弄っていた海智は次の瞬間、雷に打たれたかのように顔を上げると、突然踵を返して走り出した。
「ちょっと、何してるの!」
後を追ってきた裕子が海智と衝突しそうになり叫んだ。
「母さん、ごめん。先に帰ってて。ちょっとやり残したことがある」
そう言い残すと彼は再び走り出した。
次回更新は10月31日(金)、18時の予定です。
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