果たして一夏は午後七時過ぎに海智の病室にやってきた。黒のTシャツ、黒いパンツといういで立ちに黒いキャップを目深に被っており、何だか逆に怪しまれるような格好だった。
「面会の届け出もしなかったわ。絶対怪しまれるもの」
「じゃあ、看護師さん達に見つからないように移動しよう」
二人はナースステーションの様子を窺いながら、こっそりと四〇二号室に入室した。
「よく来てくれたわね。さあ、どうぞ」
経子の顔がぱっと明るくなり、笑顔で二人を招き入れた。
「見て、梨杏こんなに可愛くなったのよ」
ベッド上の梨杏は先日経子が見せてくれた青い椿が施された白い浴衣を包帯の上から羽織り、黄色の兵児帯を締めていた。海智と一夏はベッドサイドから彼女の艶姿を眺めた。
「本当に綺麗よ、梨杏」
一夏が呟くように声を掛けた。
「二人ともありがとうね。梨杏はね、昔から花火が大好きだったの。よく双亀岬に連れて行って二人で花火を見上げたわ。この浴衣もね、高校生の時に仕立てて、花火大会の時に着るのを楽しみにしていたのに、こんなことになって結局袖を通さずじまいだったの。だから二人に見てもらえて梨杏、とっても幸せだと思う」
経子は眼に涙を浮かべながら言った。
次回更新は10月26日(日)、18時の予定です。
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