海智は気になって、ナースステーションを窺ってみたが、一夏の姿は無かった。彼は四一六号室に飛び込むと、同室者とおしゃべりしていた金清の腕を無理矢理引っ張って、自分の病室に引き込んだ。
「あいたた、おい、落ち着けよ」
「落ち着いていられますか。事件がTVで報道されて、一夏がまるで犯人扱いされているんですよ。これは一体どういうことですか」
「どういうことって俺は何も知らんよ。ただ、そういう風に報道されたってことは、県警もそういう風に見ているってことだな」
「金清さんは県警OBなんでしょ。何とかしてくださいよ」
「そんなこと言ったって、俺には何の権限も無いんだから」
金清が当てにならないと悟ると、海智は肩を落とした。それを見て金清が言った。
「まあ、ここは冷静になろうじゃないか。俺達が動揺しても事件が解決するわけじゃない」
「金清さん、あなたも容疑者の一人ですよ」
海智が睨みつけるようにして鋭く言い放った。
「は、俺? 何で俺が」
「あなたは梨杏の父親です。あの三人に恨みを抱いて当然だ。それに、犯人がこの病棟に入院していれば、この密室も意味を成さない。おまけに嵐士は点滴にインスリンを混注されて低血糖性昏睡で死亡した。金清さん、あなた糖尿病でインスリンを使用していますよね」
次回更新は10月20日(月)、18時の予定です。
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