体育館での説明が終わると生徒たちは教室に戻るよう、指示された。ぞろぞろと体育館を出ていく様は葬式の参列のようだった。私たちが教室に戻ると同時に刑事も教室に無遠慮に入ってきた。壇上に立った刑事はまるでバスジャック犯のようで、先程の緊急集会での校長の説明よりもより簡潔に話をした。
先生と関わりがあった生徒をピックアップして事情聴取が始まった。それも終わって今は隣のクラスの事情聴取が終わるのを、口を閉ざして待った。俯いている女子は声を殺して泣いているのだろう。隣の席に座る女子が背中をさすりながら同じように俯き、肩を震わせていた。
私はその様子を遠巻きに見ていた。隣の聴取が終わり次第、集団下校になる予定だ。それまでの待機時間が長い。時計の秒針は立ち止まっては、思い出したように動いていた。開けた窓から木漏れ日が落ちて、眠気を誘う穏やかな陽気に包まれている。場違いなほど優しい日の光が恨めしい。この数分で何度あくびを噛み殺しただろう。
私も先生に先日呼び出されていたので、話を聞かれることになったが、踏み込んだ話をするわけでもなく儀式的なものを感じた。
その内容も簡単だった。最近の先生の行動についてや、先生の人となりと、被害者である先生が普段どのような生活を送っていたのか知りたいのだろう。私は知りうること全てを話した。とはいっても所詮は隣のクラスの担任であるということくらいだ。先生の授業は取っていないし部活動にも参加していないので私と先生の接点はほぼ皆無である。
「最近、先生に変わった様子はなかった?」
「いいえ。特には」
「この前、君たちが話しているのを見たと言う人がいるんだが」
思わず鼻にしわが寄りそうになるのをこらえた。刑事が言っているのは私と先生の話し合いのことだろう。
「その時も普通でした。何かあったんですか」
「いや、そういうわけではないんだけどね」
一歩踏み込めばすぐに引き返される。これじゃ暖簾に腕押しもいいところである。刑事は尋問に飽きたのか机の下からグミの袋を取り出して、一粒食べた。
「いる?」
「いいえ、グミとか飴とか苦手なんです」
「珍しいね。そんな子いるんだ」
刑事は目を丸くした。自分の好きなものは皆好きだと思っているのか。
「キャラメルは好きなんですけどね」
皮肉混じりにぼやく私に刑事はため息をついた。
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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