「形がなくなっても俺はいる。身体という物体がなくなっても俺は俺を意識できている。これって超ミクロの世界? 量子力学の分野かも?」

クーカは病魔に傷つけられたボロボロの身体を脱いで、意識が冴え渡るこの状態を痛快にさえ感じている。

「俺の意識はナニモノ? 原子とか素粒子とか? あるのにないような反物質? 電子とか光子? 波動っぽいかも。移動できるかも」

今の状態を掴みたいと集中していたクーカだったが、泣きじゃくっているチッケのことがたまらなく気になった。

クーカの意識はほとばしるほどの熱量を帯びてチッケに向けられていた。クーカはチッケの意識の真ん中に行きたいと思った。

「セーヤが電話に出ないよ。相談したいことあるのにさ。クーカ! どうしよう」

心細くてたまらないチッケは、流れる涙を拭こうともせずにもういないクーカの名前を呼んだ。クーカの名前を声に出し呼びかけることで、クーカがいない現実を否定したかった。

そういうチッケをクーカはどうにかして助けてやれないものかと、持っているエネルギーを全力で傾けた。

「セーヤ、チッケに電話してやってくれよ!」

と、クーカはセーヤの顔を思い出しながら強く思ったその後に、チッケの携帯がプルプルプルと鳴った。

「チッケさん、セーヤです。電話に出なくてすみません」

クーカは驚いた。その時一瞬、クーカはセーヤの近くに移動した気がしたからだ。

「あれ? そうか。俺、凄い? どうやったかな?」

思わずチッケは絶叫した。

「クーカ! ひょっとしてそばにいるの? セーヤに電話するように言ってくれたの?」

何か凄いことが起こっているのかもしれないと、チッケはフラフラになりながら興奮を抑えられなかった。チッケはきっとクーカが今もまだどこかにいて、驚かしてくれているんだと思ったし、そう思いたかった。今までクーカのそばで驚きの声を上げて喜ぶチッケを見るために、クーカはこれまで何でもしてきたのだ。

クーカの意識は空間に溶け込んでいて、クーカ自身は不思議と満足感さえ感じていた。