七月十八日十七時八分、左側の大型エレベーターから中村大聖を乗せたストレッチャーが運び出される。先頭の足側を一夏が後ろ向きに引っ張って、もう一人の看護師が後方の頭側を押している。

蒼は大聖の右手側に位置し、右手で移動式モニターを押し、左手でアンビューバッグを押している。アンビューバッグとは風船みたいなゴムの部分を押すと患者の気道へ空気が流れていく仕組みになっている人工呼吸に使う器具である。

十七時三十二分、信永経子がエレベーターで病棟にやって来る。

十八時二分、蒼が右側のエレベーターで一階へ降りる。

十八時三十三分、一夏が海智の病室を訪れるためにエレベーター前を通過。しばらく後、ナースステーションへ帰る。

    

その後は昨日金清と見たのと同じだ。十七日分に遡ったりもしたし、SDカードを借りた時点まで確認したが、怪しい人物は認めなかった。病棟に入った人間は全員病棟から出ていくのを確認している。

こうしてみると、非常階段に本当に鍵が掛かっていたのなら四階病棟は完全な密室である。勿論、七月十七日以前に誰かが病棟内に侵入・潜伏し、昨日の夜に出て行った可能性は否定できないが、大聖が事故で搬送されたのが十七日だから、それ以前に誰かが潜伏する理由がない。

そうなると、これが殺人事件だとして犯人は当時病棟にいた看護師か入院患者かどちらかということになる。

海智は頭を掻きむしった。こうなってくると、一夏も容疑者の一人ということになる。というか最も疑わしい人物のように思われてくる。

昨日の告白から考えて、当時この病棟にいた中で梨杏以外で最も大聖を憎んでいたのは彼女だ。しかも、彼女ならアラームを鳴らさずに人工呼吸器を止めるのは容易のはずだ。その犯行を隠すために、梨杏を見たという嘘をついたとも考えられる。

俄かには信じられないような嘘を補強するために自分に協力を求めたのか。そう思うと彼はぞっとしたが、それでも彼女の涙が全て嘘だったとは思いたくなかった。

次回更新は10月12日(日)、18時の予定です。

 

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