一方で親への手前、何もしないわけにはいかなかったので、勉強の合間にいくつかの会社の試験を受け、あまり深い考えもないまま、学校のレベルに相応と思われる中堅商社から内定をもらった。しかしその会社の国際業務は主として欧米向けで、途上国にはそれほど力を入れているわけではなかったため、何かしっくりこなかった。
そんな中でふとキャリアセンターを訪れて目に留まったのが、国際協力を謳う外国人技能実習制度を運用する「B監理団体」の求人票だった。見ると「国際協力に貢献できる外国人技能実習制度を運営する業務。語学堪能な若者大歓迎」との記述があった。
大いに興味をそそられたために、吉岡は外国人技能実習制度について調べ、B監理団体に連絡を取った。訪問したその場で面接試験が行われ、採用内定をもらったのである。その後、内定をもらっていた商社には断りの連絡を入れた。
親には「B監理団体に就職が決まった」と話した。
「監理団体ってなんだ?」父親が尋ねた。
「外国人技能実習制度を運営している団体だ」吉岡は答えた。
父親は最初、「就職が決まってよかったな」と言ってくれた。しかし日がたつにつれて次第に文句を言うようになり始めた。どうやら人に息子の就職先を話すたびに、外国人技能実習制度に対する悪いイメージを植え付けられていったようである。
「監理団体って外国人技能実習制度をやっているところだって!」ある日父親は怒りをぶちまけてきた。やがて、「そんな評判の悪いものに関係するとは何ごとだ。もっとまともな仕事を探してこい。ちゃんとした就職先を見つけない限りは許さんぞ」と叫ぶようになっていった。
母親は落ち着いた様子で、「お父さんがそう言うんだから、もう少し就職活動をしてみたら」と言ってフォローしてくれた。
吉岡はその後、再び頻繁にキャリアセンターに行くようになった。キャリアセンターの職員は言う。
「大学前半の一般教養科目はいまいちでも、後半の専門科目は抜群によい成績を取っているあなたのような方は、大学にとっては嬉しい存在ですよ。しかし企業の採用活動は大学とは異なる論理で動いていますからね。こればかりはどうしようもないんですね」
「……」
「この時期になると、あなたが希望するような仕事はなかなか残っていないかもしれないですね。でも職業適性検査の結果を見ても、そもそもあなたはタイプとして先生になった方がいいように思いますよ。」
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