【前回記事を読む】面接に出てきたのはいきなり団体トップの理事長だったが、「それなら結構。採用を決定する」とあっさりその場採用され…

1 発端

―外国人技能実習制度―

「それにJTCで必要なのは、偏差値の高い学校を出た、若くて素直で元気のある男性なんだ。もっとも世の中の流れで最近は女性も採用するようになったけどね」

「JTCって何ですか」

「Japanese Traditional Companyの略だよ。いわゆる伝統的な日本企業という意味だな」

「じゃ先輩はなぜこの会社に採用されたと思いますか」

「体育会系運動部の主将だったことと、あとは剣道をやっていたので、日本の文化を世界に伝えられることをアピールしたことかな。もっとも最近はDE&Iが言われているので、変わった毛色の奴も採っておくことで、会社として世間にアピールする狙いもあったかもしれないな」

「DE&Iって何ですか?」

「君はそんなことも知らずに就職活動をしているのか。Diversity, Equity and Inclusionのことだよ。要するにいろいろなタイプの人材を受け入れようということだ」

「失礼しました。ところで、先輩は今の仕事に満足していますか」

「まあまあかな。商社はプロジェクトが中心だけれども、うちの会社は実態としては個人商店みたいな性格もあるしね。なかなか思うような仕事に就けるわけでもない。何をするかを決めるのは人事部だしね。

でもこの仕事を辞めて転職しても、今も将来もこれ以上の給料をもらえるところはまずないし、クビになるまではここにいるつもりさ」

吉岡はキャリアセンターに戻り、再び職員と会った。

「どうでしたか。OB訪問の感想は」「思っていたイメージとは大分違いました。うちの大学、少なくとも私が入るのは無理ですね。受けない奴はやる気のない連中だと思っていましたけど、私が間違っていたようです」

「まあ、決めるのは自分自身ですから。とりあえず希望する商社のインターンシップに応募してもいいかもしれないですね。もっともうちの大学からは採用実績がほとんどないので、どうなるかはわかりませんが。うちの大学に見合った企業にもいろいろインターンシップに申し込んだり、エントリーシートを出しておくことをお勧めしますよ」

そう言われて、吉岡は大手商社のインターンシップに応募してみたが、どこからも採用されなかった。また、エントリーシートを出してみたが、どれも不採用だった。しかし他の企業や業界に対してさしたる興味を持てなかったので、同級生が就職活動に専念している中で、吉岡はしばらくはゼミでの勉強に没頭していた。