【前回の記事を読む】「結婚してください」「喜んで」――彼は薬指にダイヤの指輪をはめてくれた。「こんなに結婚生活が幸せとは思わなかったよ」

第一章 辛い結婚

兄が、「どこかでお目にかかった事があるような感じがします……」

「そうですか。銀行はどちらですか?」

「大和(やまと)銀行新宿店に居ます」

「多分、異業種交流会でお会いしていると思います」

「山岡さん、会社は?」

「吉田ホールディングスです」

「アッ! 思い出しました。有名な山岡専務ですか」

「えっ、どういう事?」姉さん。

「いつも怖がられています。アハハハハ」

「凄い! 有名な吉田ホールディングスの山岡専務っていえば、金融業界では知らない者はいないと思うよ」

「そうなの?」

「香子さんは僕の職業には興味が無いようですよ」

「だから朝、会社の車が毎日お迎えにくるのですね」

「長いお付き合いになります。どうぞよろしくお願いいたします」丈哉さん、上機嫌。

母の手料理で盛り上がって、

「美味しいです。凄く」と丈哉さん。ホッとした。

九時頃、実家を出て家路についた。

「明日、区役所に行こうね」

「何をしに?」

「婚姻届を出そうね」

「ええッ、よく考えましたか? 本当に私でいいんですか?」

「分かってないな。僕は、香子が居ないと死んだ魚の目になる」

「何ですか、それ?」

「買い物の時に言っていただろう。お魚買う時は、目を見て、耳を澄ませると、今、食べごろだよって、魚が言っている。ウオォーって」

「何ですか~ それ、ダジャレ」

「フィシュ(イエース)」

「こんなキャラでしたか。おかしいわ。うふふふ」