主役を食ったビートルズ

ビートルズは、リハーサルをほとんどすることもなく、しかも、ジェントルがどんな曲を歌うかさえ知らなかったのです。バラードが得意な歌手で、ビートルズが得意とするロックンロールではありませんでした。

そんな彼らでしたが、目ざとい地元の女の子たちからサインを求められ、プロとして初めてサインしたのです。面白いのは、全員が芸名を名乗っていたことです。

ジェントルは、テレビにも出演していてそれなりに知名度はありました。しかし、彼の前座として登場したビートルズが、すっかり彼から主役の座を奪い取ってしまったのです。1960年5月23日、フレイザーバラにあるダルリンプル・ホールでのショーでした。

彼らは、20分間で「ブルー・スエード・シューズ」「ロング・トール・サリー(のっぽのサリー)」などのスタンダードなロックンロールを演奏しました。演奏の実力はまだまだでしたが、ジョンの野性味にあふれた歌声とポールのハイトーン・ヴォイスが女の子たちを魅了したのでしょう。

彼らがショーを終えてダンスホールを出ようとすると、殺到した女の子たちからもみくちゃにされ、追いかけられながら道を走って逃げ、ジェントルの女性ファンが用意してくれていた車に乗り込むことができました。

ビートルズの初主演映画「ア・ハード・デイズ・ナイト」で彼らがファンの群衆から逃げ回るシーンのリハーサルを4年前にここでやったというわけです。

翌日、ビートルズがスコットランドの海岸でのんびりしていると、2人の女の子が彼らに気付いて話しかけてきました。ジョンは、女の子たちにもみくちゃにされて着ていたシャツが破けてしまった、お金がないからロクに食事もしていないと話しました。

彼女たちは、その話を聞くとすぐさま自宅に戻り、破れたシャツを縫い合わせてくれただけでなく、パンにバターとジャムを塗って半分に切り、彼らに渡してくれました。

 

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