マフィアの仕事はルートスには難しいものであったろう。僕とアンナはそれを見透かせていただろうか。
僕はと言えば、実はそれに相反する心も持っていた。それは人を殺す心だ。父ゴウデンが頑なにリィドにマフィアを継がせたがり、幼い頃からマフィアの仕事を聞かせ、リィドが中学を卒業してからは仕事を手伝わせていたのが災いしたのだろう。
「ルートス、欲しい本はない?」アンナが言った。
「あるんだ。昆虫の図鑑なんだ。僕、昆虫について勉強したいんだ」ルートスが応えた。
「分かったわ。午後、本屋へいきましょう」
「有難う、お母さん」
そう言うとルートスは自分の部屋へと向かい、籠って勉強を始めた。
「ルートスはお医者さんになりたいんだってね」アンナが言った。
「そうみたいだね」僕は返した。
「きっと良いお医者さんになるよ」僕は続けた。
「だってルートスは心の暖かい子だから」僕はさらに続けた。
僕とアンナはルートスに愛と沢山の本を与えた。
ルートスはそれに応えるかの様に勉強に向き合った。真っ直ぐな子であった。