給湯室には先客がいた。食品機器部の清水香織が湯飲みのコップを洗っていた。
裕子は背中から声を掛けた「香織ちゃん元気?」香織は振り向いて「あら裕子じゃない、新任の事業部長は来た?」と周囲を気にしながら小声で話しかけた。
「先ほど、支社長のシモンさんがお連れしたよ」
香織は興味深く口元に手を当てながらさらに小声で「外国人? 日本人?」と裕子の顔を覗き込みながら聞いた。
「どっちだと思う? 香織はどちらが好み?」
「そうね、私は外国人の方がいいかな」
「どうして?」
「せっかく外資系の会社に入ったんだから異国の空気を吸いたいからね」
「そうだよね」と相槌を打ってから自分が持参したコップに目線を移した。「外れ」続けて「でもハットが似合いそうな方よ」
香織は「それ、どういう意味?」ととっさに意味が飲み込めなかった。
裕子はここで長話は出来ないと思い「香織ちゃん、悪いね、今、事業部長にお茶を用意しますと言って出て来たの、今度ゆっくり話するね」
「そうだったの、引き留めてごめんね、じゃあ」と言い、香織は給湯室を出て行った。
新任部長の長谷川に最初に会ったのは塩見裕子だから、何かの情報をつかもうと若い社員なども塩見に接触しようと秘書のデスク周りを特に用件もないのにうろついていた。
特に彼らには特別な意図があるわけではなく、どんな人物か他の人より先に知りたいだけだった。