選挙には落選したけれど、ご主人は変わらず地域のリーダーとして、減反政策反対運動のためあちこち駆けずり回られていて、明日は農水省のお偉方に直接会って陳情することになっている、と淡々とおっしゃったのです。ご主人曰く、

「手足が動かなくても、頭があれば、人を使って何でもできるのだ」

「K(会の発起人)は病気にならなかったら、あんなに立派な人間にはならず、ただの喫茶店のオヤジに終わっていた」

「気持ちが落ち込んでうつ病になるのが一番良くない。病状を悪くするだけだ」

「善一さんはまだまだ若いし、病気もたいしたことはない」

「仕事はカメラマンだけではない」

などなど、ご自分の病気の重さを忘れたかのように、私を励ましてくださいました。奥さんも、

「50歳過ぎて主人がこんな病気になり、人生も残り少ないから諦めねばならないのだろうけれど、人生最後にここでもう一回花を咲かせたいと思っているときにこんなことになってしまって、開き直れるまではずいぶん苦しみました。あなたもご主人もまだ若いので、なかなかふんぎりがつかないでしょうが、早く気持ちを切り替えて、今の仕事に執着するのはやめて頑張りなさいよ」

などと言ってくれました。Kさん、Nさん、ともに生きることに目的意識をもって明るく生きていらっしゃいました。

その日早起きして、島原から車を運転し、東京へ着いてもいろいろ緊張の続いていた私は夜11時近くのそのとき、正直言ってまぶたがくっつきそうなくらい眠くて仕方がなかったのですが、滅多に聞けない貴重なお話を一言も聞き漏らすまいと、最後まで真剣にお話をうかがうことができました。お二人とも、善一さんと話がしたかった、と残念そうでした。

次回更新は8月18日(月)、22時の予定です。

 

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