考えたところで、何も変わらない。

木から零れた林檎は地面に落ちるし、夜が終われば朝が来る。お腹が空いていたら空いたと感じるし、十は十だ。それは私たちが生まれる前から既に決まっていて、世界が終わらない限り永遠に在り続ける。摂理とは、なんて不自由なものなのだろう。

逆に変わり続けるものと言えば人間の心体的な部分で、良くなることもあるし悪い方に行くこともあるが、病むことを選んでいる人なんて一握りかそれ以外だろう。運命と言ってしまえばそれっきりで、人間の本質的な部分から目を逸らしているだけのただの思考停止にしかならない。

もし、運命でこの世が回っているとするならば、何故、千春は巻き込まれたのだろう。

千春は、死にたいと思って生きた訳じゃない。でも、新緑を踊らせる爽やかな風は無情にも彼を連れ去った。

火葬式は私だけで、何事もなく静かに終わった。

遺影は、岬で撮った写真にした。ちっとも笑ってないけど、少し機嫌が良い時の顔。

遺骨は大切に持っておくことにした。合っているのかも分からないのに、せめてもの弔いで線香を焚いたのだが、部屋に匂いが付くと大家さんにキツく怒られてしまった。

「人生上手くいかないね」

フレームに入った千春の写真を指先で撫でる。

「千春と居たって、私どうしようもなくてトロいのに、どうするの。一人にしないでよ」

千春に触れる時は心臓に悪い程緊張したのに、写真だとこうも簡単に触れることができるなんて情けない話だ。写真をなぞると、彼の熱が伝わってきた。でも指先にしか伝わらなくて、ここには私しか居ないのだと惨い現実を押し付けられる。その圧に負けてしまい、頭が重くなって項垂れるしかなくなる。