【前回記事を読む】「俺、お前と付き合ったことあったっけ」――男性医師がわざとみんなの前で取った、あまりにも残酷な言動。交際が煩わしくなり…

残念ながら俺は噓つきだよ

「川だらけだ」

高梨は力なく山頂からの景色を見ていた。一級河川である吉野川の分岐が、よく分かる。しかし、眉山をどんなに回っても、麻里那はいなかった。

「そう簡単には会えないか、そうだよな」

高梨は川の流れを見つめながら肩を落としてうなだれ、独りごちた。川は数えきれない分岐をしていて、それぞれが徳島の地を潤しながら、正午の光を集めて走っていた。だが、小さな川たちが東西南北に走っても、それらはやがて一本の吉野川となり、海に注いでいた。

分かれていても、海へ還るという目的のために、いつか一つになる。高梨はそれを見て、麻里那と自分の道がどんなに分岐しても、いつかまた一つになれる気がした。同じ医師という道を進んでいれば、きっとまた道が交わる。そう思うと、死にかけた体に魂が戻る心持がした。

帰りのロープウェイに乗り込んだ時、頂上に昇ってゆくロープウェイとすれ違い、何気なく中を覗いた高梨は目を疑った。そこには、今より痩せている、20代の頃の高梨がいた。向かいには、研修医時代によくしていた髪型であるポニーテールの、あの頃の麻里那が座っている。二人して白衣を着て、笑顔で手を握り合っているではないか。

「いつか、一緒に病院を開院できたら嬉しいですね! 隆一さんならいっぱい患者さんが来ますよ!」

「俺ほどの腕の医者なら、大病院にしないと駄目だな。お前もその頃には俺にちょっとでも追いつくように研鑽を積んでおくんだぞ」

そんな会話がはっきりと聞こえてくる。

「何で俺がいるんだよ……麻里那、おい!」