九月二十二日(秋分の日)
今日は佳奈美の誕生日。夫はこの日も朝帰りだったが、いつになく静かに布団に入り、今さっき起きてきてシャワーを浴びている。真奈美が引っ越したことには、まだ気づいていない……。
佳奈美が二階の部屋からおりてきて、私の耳元でささやいた。
「お母さん、やばいよ。あのね、お父さんが、さっき私の部屋に来て、お誕生日おめでとうだって」
(そうなんや、めったに子どもの部屋なんか行かへんのに、やっぱり誕生日だけは行くんや……)
「私の誕生日が先でよかったね。お姉ちゃんの誕生日までに出ないと……」
真奈美の誕生日は十二月九日――。いつ家を出るかは、まだ決めていないが、確かに意識したほうがいいかも……。
我が家では昔から、誕生日は家族で祝ってきた。休日に当たれば外へ食事に出ることもあったが、今回は諸事情を加味して、家のリビングでささやかにすることにした。
夫はまた出かけてしまって、何時に帰るかわからない。夜七時前くらいに真奈美が来たので、ひとまず先に乾杯した。久しぶりに娘二人と歓談しながら、今朝の佳奈美の話を真奈美にすると、
「あっそう……じゃあ、もし間に合わなかったら、部屋で寝てようか?」
「あんたなあ、よう考えてみ! あれだけ生活感のない部屋で寝てたら、ますますおかしいと思われるやん」
「そうだよ、お姉ちゃん。居残ってる、うちらの身にもなってよ……」などと笑って話しながら盛りあがっていたところに、バタンと玄関のドアが閉められる音がした。孝雄が帰ってきた。どう迎えればいいのか……。
しかし彼は意外にも(?)、私たちを見もしないで、リビングを素通りして二階へ上がっていった。