手を繋いで山を下り始めると突然、流星が大股の早足で真由子の手を引っ張った。そしてグイグイとそのまま真由子の手を引っ張ってドンドン下りだす。

「えっ、早いよ。下り坂キツいのに、流星ひどーい!!」

必死の形相で真由子が流星に訴えると、

「アハハー! 真由子ちゃん、頑張れー!」

からかうように笑いながら答える流星は、いたずらな小学生みたいだ。

この時の流星の可愛い様子を思い出すと、真由子は毎回涙が溢れてくる。高尾山を必死で走って下山したことも、良い思い出となった。

走って下山なんて24歳のイタズラっぽい流星と一緒だからこそ出来たスリリングで興奮するような経験だったと思う。

下山してから真由子が、

「もう、足から下腹部に刺激が来るから、オシッコ漏れそうなの必死で耐えたんだからね!」と口を尖らせて文句を言うと、

「てかもうチビったんでしょ?」と流星にからかわれた。

(……何で分かったんだろ? オリモノシートしてたからギリセーフだけどチビっちゃった……)

帰りに2人は新宿の老舗喫茶店でカレーを食べた。お腹が空いているので驚くほどカレーが美味しいと感じるねと言い合って、笑い合う流星に19時にギャラを支払って別れたが、これから流星は銀座のホテルでお客様のマッサージが、次の仕事だと言った。

しかもその人は1年以上毎月地方から出張のたびに流星を指名しているらしい。それを聞くと真由子は内心寂しい気持ちにはなった。

(今日一日流星くんと本当の恋人気分でハイキングを一緒に出来たのに、流星くんには次のお客様が待っているのね……)

人気セラピストの流星の仕事を感じる真由子。ただこの日の高尾山ハイクで流星と見た紅葉が素晴らしかった為に、真由子には良い思い出として深く刻まれた。

流星との高尾山を思い出すたび、真由子は懐かしい名曲「燃える秋」をYouTubeで見ながら思い出に浸っている。