心霊学や死後生に強い関心を抱いていた川端
この当時、西洋文学は人間の大量死をもたらした第一次世界大戦後、科学や機械文明への疑問と宗教や心霊学への関心を傾向として持っていて、日本にも霊界の存在を説く神秘主義者スウェーデンボルグ(「スウェーデンボリ」ともいう。一六八八~一七七二)の著作が紹介された。
川端は、友人・今東光の父親の語る神智学の刺激もあって、心霊学や死後生に強い関心を抱いた(羽鳥一英「川端康成と心霊学」の中の今東光の話による。『国語と国文学』昭和45年5月号)。
特にイギリスの物理学者で心霊学者オリバー・ロッジの『レイモンド』という、自分の死んだ息子の霊界からの通信をまとめたという本に興味を示していて、小説『抒情歌』にもそれが反映されている。
昭和4年の『嘘と逆』で、自分の文学を当時盛んなプロレタリア文学と比べて「笑ふべきかな僕の世界観はマルキシズム所か唯物論にすら至らず、心霊科学の霧にさまよふ」などと書いているが(㉕ 第三十三巻)、このあとで見るように輪廻転生を科学的に説明しうる時代を期待していた可能性が強い。
ただし、彼の西洋スピリチュアリズムへの関心はその後新たな展開をみない。「ダンテやスウェーデンボルグにいたしましても、いったい西洋人のあの世の幻想は、仏典の仏達の住む世界の幻想にくらべますと、なんと現実的で、そうして弱小で卑俗なことでありましょう」。
それに対して「仏教の経文の前世と来世との幻想曲をたぐいなくありがたい抒情詩だと思う今日この頃の私であります」(『抒情歌』)と記すほどだ。