と言ってくれていたので、飲んで遅く帰宅することに抵抗はなかった。千恵も上司によく誘われた。たまに早く帰宅する日は、誕生日やクリスマスなど、どの家庭でも大切にする日だけだった。

その生活が一変した。自分から誘うことはなくなり、誰からも誘われなくなった。後に、千恵から聞いた話では、娘は千恵に、

「パパ、変わったね」。千恵は

「私ががんになってしまったからだよ」

と返答したそうだ。少しの時間でも、今は千恵と一緒にいたかった。もし、病気ががんでなく、他の病気だったら、これほどまでに家族や家庭に尽力していただろうか? もし、数カ月後に完治すると分かっていたら、同じ言動をとっていただろうか? 

私は、家族がもっとも大切だと頭では分かってはいたが、私自身、家庭に入る隙間はなく、遠くから見物していたにすぎなかった。

その後、家事を少しずつ教えてもらうようにした。結婚前は母と実家で暮らし、全ての家事は母が行っていた。結婚後は千恵に家事を任せきりにしていたため、ご飯の炊き方も洗濯の仕方も知らない。

家事をすることは嫌いではなかったが、千恵が専業主婦だったため、率先してする必要はなく、しなければならないような状況にもならなかった。

次回更新は7月2日(水)、8時の予定です。

 

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