私は弟を置き去りにしたまま十六歳で親から逃げた。その後、弟は親から逃げ東京の大学へ行き、韓国の女性と結婚し婿養子という形を取った。
しかし、それは逃げではなく、自分が寂しくならないような環境を選び、そこにじっとしているだけなのだと考えれば妙に納得する。
そして弟はもう姉を必要とはしない別の世界で生きている。
弟からすると、幼い頃に姉から捨てられたのだという想いがあり、私はずっと恨まれていたのだ。
「姉ちゃんが出て行ってから俺がどれだけ苦労したと思っているんだ。俺は一生分の親孝行をしたからもう自由になりたいんだよ」
それが、弟が結婚する時に両親に言った言葉。韓国で結婚式を挙げたが、両親だけが参加し私のことは呼ばなかった。
弟は、結婚式以外に奥さんを両親に会わせることはなく、北海道にも連れて行ったことはない。弟の奥さんは、私と弟と三人で飲んだ時に私に言った。
「私はご両親に嫌われているみたいですね。会うのが怖いです。たまに酔っぱらってお母さんから電話が来るんです。駄目な嫁だと言われます」
「一生会わなくてもいいよ。ただ、弟の傍にいてくれればそれでいいよ」
私はそう言った。