混乱を招く淫らな女

涙がこぼれ落ちそうなのを必死で堪えて帰ってきた。空気はだいぶ暖かくなり、春の訪れがもうすぐそこにあることを思わせた。外仕事というのはこれからが楽しい季節なのだが、過酷だった冬の終わりと共に幕を閉じることになりそうだ。

慣れ親しんだ職場を離れ、仲良くなった仲間と離れることが悲しくて仕方がないのである。私が所属する会社には孤独な人間が多かった。

理由があって高齢になっても一人で生きている。年齢は違えど私も孤独な人間なので、気持ちはわかるつもりだった。人間は元気で健康なときはいいが、体調を崩し、働けない状態になるととてつもない不安に襲われる。

身内がいれば世話をしてくれるが、そうでない人間は一体誰が面倒を見るのだろう。私は過去に、過労で倒れて仕事へ行けず、頼る人もなく、絶体絶命と思われることがあった。

電話をかける相手もいない。話し相手は月に二回通う病院の医師だけだった。一日は長く、カレンダーの月日は一向に進まず、入院する金もないので部屋に一人でいることしかできなかった。

次回更新は6月22日(日)、20時の予定です。

 

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