午後は清水寺まで足を延ばすこととし、五条坂でタクシーを降り三年坂との合流地点にある七味家本舗の前に出た。そこから清水坂を上って間もなく、音羽山を背にした清水寺の仁王門が西日を浴びて雄姿を見せていた。

境内に入り三重塔、経堂、田村堂を経て本堂に進み舞台に出ると、正面の谷の向こうに朱色の子安塔(こやすのとう)が見える。右側には冬木立を通して京都の市内が夕映えに染まり、遠くに京都タワーが霞んで見えた。

音羽の滝を見て奥の院まで足を運び、先ほどまで佇んでいた本堂を臨むと、迫(せ)り出した舞台を支える柱の組み合わせが優美な姿で一望できた。

その後ホテルに戻り夕食を簡単に済ませると、明日の白川との再会に心をざわつかせつつやがて寝入った。

翌日九時、白川との待ち合わせの時間が迫っていた。茅根ははやる気持ちを抑えながら、駅構内の人垣を抜けるように足早に歩いた。やや緊張し、落ち着かない気分だった。

白川は茅根を見つけると、改札口を抜け出るやいなや駆け寄ってきた。

「茅根さん、お久しぶりです」

「こちらこそ、ご無沙汰しておりました」

タクシー乗り場まで白川は茅根の腕を取り、茅根の顔を見てはにかんでいた。

タクシーで約束していた大原に向かった。車中、白川は茅根の手を握っていた。

市中を通り抜けると、雪原と化した田圃が見えてきた。点在する家々の屋根に降り積もった雪が冬日を跳ね返している。

「朝早くて、大変だったんではないですか」

「いいえ、茅根さんにお会いできると思うと、時間は関係ないですから」

大原三千院には三十分ほどで着いた。

三千院は洛北大原の里にある。門前の桜の馬場には寺院の高い石垣に沿って雪掻きしてできた小山が連なっており、参道に張り出した樹々の枝には氷雪が付着していた。

 

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