彼は私の腕を掴み美術部の部室を出ると、夕方の薄暗い廊下を走り抜け、茶道部茶室に連れて行った。走っている途中に、夜間高校の学生が学食でパンや牛乳を買っている光景が見えた。

勝手知ったる他クラブの部室(茶室)に彼は堂々と入っていくと、中から鍵を閉めた。

「あのな、ことり、ここに横になってみ……」

私はとっさに察知した。彼が第3段階をやろうとしていることを……。

「あのねぇ、あたしねぇ、今日生理なんよ」

「だったら、ええやん、妊娠せえへんから」

二人は「妊娠」することを恐れ、第3段階を避けていた。

「あたし怖いわ。初めてやし、痛いっていうし……」

「俺は1回やったことがあるから大丈夫や」

「誰と?」

「いや、前に付き合っていた年上の女……」

何か、しどろもどろになっている。次第に外は暗くなり、真っ暗闇の中、茶室のガスストーブの明かりが二人のシルエットをオレンジ色に照らしていた。

「これでええんかな、ことり大丈夫か?」

「うん、痛いけど……」

初めての経験はこんな風に終わった。処女を失うと出血するらしいが、私の場合元々出血していたので、どれがどれか分からなかった。ただ、痛かったことだけは覚えている。

男は女とSEXするまでが優しいというが、まさにこの頃までが彼の私に対しての優しさの絶頂期だった。目的を達成するともう用なしという訳ではなかったが、旅行から帰ってきた彼は少し大人になっていた。

それは彼が大学に入ってから顕著になったが、大学という所を知らない私は単に勉強が忙しいのだろうと思っていた。