秋の気配が深まって来た感がする。街路を歩いていると茶色く色づいた落ち葉が散乱していて、風に寄せられて道路の端に重なった落ち葉を踏みしめると「シャキッ」とした音がした。
この季節に特別な思い入れはないが、ふと庭木の手入れを思い出していた。花帆や結衣たちと別れて家路に向かっていた美代子は、明日から始まるフィットネス通いにどんな服装がいいか思案していた。
自室に戻り、とりあえず想像していた何点かの候補を洋服ダンスから引っ張り出した。
その中には長袖のシャツも有ったが、迷った。この季節なら長袖か、いや室内で運動するから半袖でしょう! ジムの現場で実感してないから迷うのも当然。先日申し込みにジムに行った時、少し見学してくれば良かった、と悔やんだが後の祭り。
気を取り直して頭でエアロビクスを想像してみた。そうすることで汗を一杯かいた自分の姿が浮かんできた。半袖にする。Tシャツの色を当初白と決めていたが迷いがあった。白色は見た目は清潔そうでいいが、運動すると汗ばんだ時、透けないか少し気にして他のシャツを引き出しから出して体に当てたりしながら、最終的にえんじ色を選んだ。
ボトムはブランド品のグレーに決め、スポーツバッグにタオル、洗面用具一式を詰めて、子供が遠足に行くみたいにそわそわしながら、シューズを入れるのを忘れるところで、一番軽量の白を最後にバッグに忍ばせた。
〝グリーンジム〞を申し込んだときに、レッスンのスケジュール表をいただいたので、十時の初級エアロビクスと十一時半のホットヨガをやってみることにした。ジムには平日というのに若い奥様や中年のおばさま、そして年配のご婦人もまばらにいて女性が八割ぐらいを占めていた。
ジムはたまプラーザ駅から歩いて十分位の距離にある。辺りは静かな住宅地と畑が混在して、けやきの街路樹が道路左右に背高く伸びている。
ジムの一階はマシンとプール。二階が受付になった構造で、二階部分にはフィットネスとホットヨガ、そして周回のランニングコースが設けられている。
美代子は誰一人顔見知りはいないので、初日は初心者ということもあり、一番後方の場所を確保して、軽く準備運動をしていた。
時間になったのでインストラクターの若い先生がニコニコしながら正面ガラス張りの壁面を背にして、大きな声で「おはようございます!」とヘッドマイクを通して元気な声を発した。
次回更新は4月23日(水)、22時の予定です。
誰を選び、何を捨てたのか。
『迷いながら揺れ動く女のこころ』の前作 結婚前の美代子が揺れ動いたあの頃を描く 『揺れ動く女の「打算の行方」』が4月22日(火)より配信開始!