自転車に跨いで去っていく祐介の姿が見えなくなるまで手を振った。もしかしたら、思い留まって戻ってくるかもしれないという期待を持ったが、祐介は一度も振り返らなかった。
やっぱり別れないでもいいのではないかと連絡してみたが祐介の意志は固く、大人しく引き下がった。三日間泣き続けた後、砂漠のように枯れた涙腺からは一滴も涙は出なくなった。
祐介がいきなり別れ話をしたのはきっと私が重荷になったからだ。父に彼氏の存在がばれて、それから私が不安になって……あの日から私の心はさらに重くなり、それが原因で私たちは壊れていったんだ。
父のせいだ。母のせいだ。どんな些細なことでも誰かのせいにしたくて両親を恨んだ。
「こんな家、早く出て行きたい」
「ここには居場所はない」
「ここにいると私はずっと不幸のままだ」
口癖のように毎日いい続ける私に、母は「うん。東京で楽しんできなさい」と答えるだけだった。この頃の私は、母の気持ちを汲み取ることができなかった。
初めての彼氏が祐介で良かったと心から思う。父の不倫で男嫌いになりかけていた時、偏見はあったが祐介のように純粋で一途な男性がいることも知ることができた。東京へ旅立つ前にあの公園のベンチに座った。
約二年半過ごした祐介との思い出を振り返ると泣けてくる。まだ付き合っているのではないかと錯覚してしまうほど心には祐介がまだいる。右手に光る赤いルビーの指輪は御守りとして外さないでおこうと真っ青な空に右手をかざした。
次回更新は4月24日(木)、21時の予定です。
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