目の前にあるショートケーキは苺を失った部分の生クリームがはげている。こんな時でさえその造形を目で追ってしまう。静物デッサンを二年も続けるとすべてが絵のモデルに見えてくる。
「受験が無事に終わるまでは見届けたくて……ごめんな」
もうずっと前から決めていたことだと言われ、説得もさせてもらえず無言の時が流れた。
「最後に抱きしめてもらっていい?」
「おいで」
両手を広げる祐介は、いつもの祐介だった。私の肩を強く抱きしめた腕は少し痛くて、少し震えていた。
「泣いてるの?」
「泣いてない」
「鼻声になってる」
そういった私の声も鼻声だ。別れ話をした後、私たちは二人して泣いていた。祐介の部屋を出るまで何時間も抱きしめ合っていた。涙が止まっては溢れてきて、なかなか外に出られなかった。やっと私の涙が止まったタイミングで、祐介は家まで送ってくれた。
「ケーキ、食べれなかった」
「そうだね」
「……また食べに行くから」
「うん」
「ばいばい」
「ばいばい」