「お父さんは信州の生まれで、女の私から見ても羨ましいくらい色が白くてね。ただ、建設現場の仕事だったから顔だけが赤黒く日焼けして、眼鏡の縁だけが白くなってた」

母が指で撫でた写真は、父と幼い僕が手を繋ぎ、鷲羽駅前の商店街を歩いている白黒の写真であった。

「お父さんのうれしそうな顔……」

「よっぽどお前のこと、かわいかったんやと思うよ」

母の瞳に浮かぶ感情と涙の粒は、今にも決壊寸前のダムの水が地球の重力で何とかそこに留まっている。僕にはそんな風に思えた。そこには、父の零れるような「品のある優しい笑顔」が収められていた。

「本当に品の良い顔立ちをしとったね」

「うん。息子としていうのも恥ずかしいけど、本当に温かい人だった……」

僕は母の手にしたアルバムの白黒写真を覗き込み、写真に残る父の笑顔を暫く見つめていた。結局、父の愛情に対して、僕はこのような言葉でしか表現できなかった。母の片づけが一向に進まない理由も肯けなくもない。そう思った瞬間に深い切なさが込み上げてきた。

「でも、まあこんなに物を置かなくてもええと思うけど……」

湿っぽい空気を振り払うように小さな窓を開けた。取り敢えず三段以上も積み上げられた段ボール箱と、布団袋を部屋の外に運び出す。

段ボール箱の隙間から見えていた、父の残した黒いスピーカーとオーディオアンプがずっと気になっていた。ところが僕は、音響機器に関してはまったくの素人であった。なので、オーディオ関連雑誌などを拾い読みして、父が組んでいた機器を調べてみた。

   

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