どうしてもっと甘えさせてくれなかったの。

どうして私とお兄ちゃんに優しく微笑みかけてくれなかったの。

勉強なんて何になるの。

それよりももっと愛して欲しかった。

一緒に遊んで欲しかった。

「里奈」

祐介の胸の中で涙を流していた。

「ごめん、変な夢を見たみたい」

祐介の顔を見ると荒んでいた心が和らいでいく。胸に顔を埋めて息を鼻から大きく吸い込む。タバコと柔軟剤の匂いがする彼のシャツは、私の心に平穏を与えてくれる新しい安定剤となった。

お父さんの代わりに愛してね。

お母さんの代わりに抱きしめてね。

「里奈、今度の土日何してる?」

「今度? 何もないけどどうして?」

「妹が会ってみたいって」

「ギャルの? 話噛み合うかな」

「今は落ち着いてるよ。週末久しぶりに実家に帰ってくるから、里奈の話したらすごい食いついてさ。まあ俺が初めて彼女の話したし」

「冗談だよ。祐介の妹会ってみたい。凄く気になる」

祐介の妹は二つ下の二十一歳、妹といっても私にとっては成人した大人の女性だ。子どもっぽいと思われるのは嫌で、髪の毛でも巻いて行こうかと数日悩み通した。祐介にいつも通りでいいよと言われたので、前日に念入りにトリートメントだけして黒髪ストレートのままにした。