第一章 出逢い ~青い春~
一
「圭一郎さんじゃなくて、貴女どんな人がいいの? 貴女が奥手で、ずいぶん心配したのよ。お友達はみんな彼氏がいて、早い人はとっくに結婚したから。そりゃぁ、昔とちがって今は結婚が遅くなってるけど、もう二十五を過ぎても、ずっと彼氏がいなくて、お母さん、本当に気をもんだのよ。お父さんが古い考えで、貴女を女子高、女子大に行かせたけど、内気な貴女は彼氏ができなくて、お母さん心配だったわ。だから、圭一郎さんと付き合ってくれて、本当に安心したの。一度、家まで送ってもらった時、ご挨拶したけど、彼はいい人よ。誠実そうだし、それに将来はきっと学者になるわ。ねぇ、貴方」と、真弓が言った。
「うん」と、達雄も頷いた。
真弓は娘を説きふせようと、いつになく、よくしゃべった。夫のスキルス性胃ガンがわかってからは、沈み込んで、殆ど話す事がなかった。そんな母が、自分の誕生日に、一生懸命に話してくれる気持ちがうれしく、優子は、父を安心させ、母を喜ばせようと思い、黙って小さく頷いた。
「そうか。いいんだね」と、達雄は安心した顔で言った。
「良かった。わかってくれて、ありがとう」と、真弓も満面の笑みを浮かべた。優子は、父と母が喜ぶのを見て、うれしかった。
「お父さんとお母さんは高校の同級生で、大恋愛をして結婚したんでしょ?」と、優子は何度も聞いて知っている話だが、何故かもう一度ちゃんと聞いておきたいと思い、聞いた。