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あの人は教壇に立っているあの人を見て、私は何度もこれは夢じゃないんだと思った。チョークで白く汚れた指先で教科書をめくりながら、ときどき聞き取れないぐらいくぐもった声で話すあの人は、目が覚めたら消えてしまう蜃気楼ではなく、血の通った本物のあの人だった。

私は嬉しくて授業に集中できなかった。声を聞くのに夢中で内容が頭に入ってこなかった。一か月は長かったが、あの人に会えたことでもうその苦しみは消えていた。長い休みはついに終わったのだ。

しかし、喜びはつかの間だった。再会はわずか五十分で打ち切られた。終わりのチャイムが鳴ると、私は悲しい現実に引き戻された。あの人はすでに教科書を閉じ、立ち去る準備をしていた。

 

次回更新は3月16日(日)、20時の予定です。

 

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