三
「毎年発表されるデータを見ると、小中学生の不登校が急増しているのがわかります。ニートも同様です。欧米ではこのような異変が指摘されていないのです。日本になぜ突出した異変なのか、その原因は何か。私はこう考えて主張してきました。
一つは加工食品を中心とした軟食化が進み、咬まなくなり、顎骨が発達せず、歯並びが乱れて咬み合わせが狂った。咬み合わせが狂った結果、下顎の位置がずれ、五キログラム以上もある頭部の重心が偏った。
五~六キロもある頭という球体の重心が偏ると、体が倒れるのを防ぐため、背骨、つまり脊柱を曲げて防御姿勢を取る。
これが脊柱側弯症の真の原因と、私は考えています。脊柱が側弯すると体も神経系も滑らかに動くことができず、身心の不調が生じることはわかっています」
少し内容が難しい説明だが、本当の原因を理解しておいてもらわないと、明らかに治りが悪い。しかし実知も知数も真剣に聞いている。
「今日私が行ったのは、スプリントを嚙ませて、頭部の重心を脊柱の中心に合わせただけのことです。今も顎骨も歯列も形態的に歪みがあるままです。体の姿勢を支える全身の骨格や筋肉も、十分な強さはありません。
問題があり、弱い体のまま技術的に重心を微妙に整えて、やっと正しい姿勢を保っているから、体調が良くなっているだけなのです。真の問題が解消したわけではありません。だから崩れやすく、脆い状態です。
自身の生命が必要としている食べ物をよく咬んで食べ、体も自分の体重を支えるのに十分な程度に鍛えておく、という対策が今後必要です」
体の歪みの問題を理解してもらい、それに加えて食の問題を理解してもらわなければならない。
「もう一つ、もう何十年も私が疑っている原因があります。食品に含まれる食品添加物、農畜産物に含まれる農薬や化学肥料などの化学物質、食肉に含まれるエストラジオールという女性ホルモンなどです。
欧米に比べ、日本では規制が弱く、ほぼ野放し状態です。食品だけでなく水も空気も同様に汚染され尽くしています。環境化学物質汚染はどこにも浸透しています。もっと解決が難しい環境化学物質汚染の実態があります。
今は住宅、車、食器、おもちゃ、勉強道具、衣服など、全てにプラスチックや化学繊維が浸透していて、これから離れて生活することが不可能な状態になっています。
これらプラスチック類を軟らかくしたり、硬くしたりする可塑剤として使われているフタル酸エステルやビスフェノールAなどが、水にも空気にも食物にも溶け出して、環境汚染状態となり、生命を攪乱していることがわかっています。
オス、メスの区別を中性化して少子化を招いたり、男性ホルモンが減少する結果、闘争心や意欲が低下したりすることもアメリカでは研究され、報告されています。これも日本では野放しです。
私が三十年前に歯科材料から唾液中に溶出するビスフェノールAの量を研究し、発表したら袋叩きに遭った、というのが実情です」