勝つためにすべきこと 張西厚志

「僕は長年体操の世界を見てきましたので、国際、世界の舞台に日本人がいることの重要性を実感してきました。採点競技である体操と対戦競技のフェンシングは違うように見えますが、審判のジャッジで勝敗が決まるのは同じ。

この1点、という重要なポイントを決める場面で、一方はみんなが知っている世界の強豪で国際に何人も役員がいて、もう一方はゼロ。それが日本やったら、どうですか。極端に言えば、アタックしていても、ポイントは相手に入ることもある。

これはあかん、公平に、同じ目線で裁いてもらうためには世界で日本の地位を広めていかなければ勝てない、と痛感しました」

7部門の中でも最も重要だと考えたのが、必ず試合会場に帯同しなければならない審判、医事、そしてSEMIの3部門。

当時50歳を過ぎていた張西はその必要性を訴え「若い人間が世界に出るべきだ」と説いたが、返ってきた答えに絶句した。

「それだけ必要ならば、まずあなたがやるべきでしょ」当時を回顧し、張西が笑う。

「えー、って思いましたよ。理屈はそうかもしれないけれど、私は引いていく人間なんだから、これからは若い人間が出ていくべきだ、と言っているのに自分がやれ、って(笑)。

でも、正直に言えばいきなり選挙へ出ても最初から受かるとは思っていませんでした。それやったら、まず自分が最初に選挙へ出て、〝日本も選挙に出てくるようになった〟という実績をつくるのが自分の仕事だと考え、受け入れることにしたんです」

ところが、事態は想像と異なる方向へ転じた。当選したのだ。以後、16年までの5期にわたりSEMIの委員として世界で数多くの経験を重ねた。中でも、張西が「今でも忘れられない」と振り返るのが、14年に韓国・仁川で開催されたアジア大会での出来事だ。

SEMIは大会で用いる武器、器具関係のすべてが認証基準から違反していないかをチェックするセクションであり、剣の長さや重さ、柔軟性やポイントのスプング圧力、ユニフォームの生地の強度、すべての分野に細かく定められた基準があり、たとえ大会当日でも基準に満たない違反と判断されれば認定は下らない。

時には武器検査でクリアしたものが直前のコールルームでの検査により試合出場が不可となることもある。

14年の仁川アジア大会は、張西の長いキャリアの中でも「経験がない」と振り返る、稀なケースに見舞われた。

五輪や世界選手権は3人であるのに対し、アジア大会に派遣されるSEMIの国際委員は1人。それぞれの現場責任者はいるが、最終決定は1人で下さなければならない。

それでも「わからないことがあれば、絶対に自分だけで判断するのではなくSEMIに聞きに来ること」と徹底していたが、張西の目が届かぬところで大きなミスが生じた。