庭を進むと、車が二台置ける車庫がある。その車庫には、車は一台も止まっていなかった。遠くから、水のせせらぎが小さく耳に届いてくる。

永吉は、ここに住んでいるのだろうか。

十年分の想いが詰まった永吉との再会の日が、遂に今日なのだと、意を決してようやく辿り着いたのだったが、そう簡単に事は上手く運ばないようだ。

でも、あれだけ庭が手入れされているなら、誰かが住んでいるかもしれない。きっと祖母だろう。何か、永吉の事を知っているかもしれない。

蓮は、その小屋に車を停めて、庭に出た。車庫から家の玄関までは、二十メートルほど離れている。その間には綺麗に砂利が整えられ、人が歩くための道が造られていた。蓮はその上をゆっくりと歩いた。

歩きながら周りを見渡すと、昔飼っていたレオの犬小屋が、そのまま放置されている。もうレオは死んでしまったようだ。犬小屋を片付ける人は、いなかったのだろうか。 

蓮は、視線を遠くに逸らした。庭から眺める山の景色は心地よかった。それは子供の頃、永吉と遊んだ記憶と重なった。

山の方から、川の流れる音が聞こえてくる。さっき聞こえたせせらぎはこれだったのだなと、察しがついた。

幼い頃、その川で溺れかけた事を思い出した。その時も、永吉が助けてくれたのだ。

過去の思い出を振り返りながら、蓮の心臓は張り裂けそうに高鳴っていた。

蓮は玄関の前に立った。

ばあちゃんは俺の事を覚えてくれているだろうか。祖母が昔、蓮とかくれんぼをして遊んでくれた記憶が浮かんでくる。きっと、覚えてくれている。

蓮は、自分の背中を押すようにして、一度深呼吸をしてから、チャイムを鳴らした。

【前回の記事を読む】「今日で最後にしましょ」不倫相手と別れた十か月後、二人目の子供が生まれた…。W不倫の夫婦の秘密にまみれた家族関係とは

次回更新は2月3日(月)、20時の予定です。

 

【イチオシ記事】喧嘩を売った相手は、本物のヤンキーだった。それでも、メンツを保つために逃げ出すことなんてできない。そう思い前を見た瞬間...

【注目記事】父は一月のある寒い朝、酒を大量に飲んで漁具の鉛を腹に巻きつけ冷たい海に飛び込み自殺した…