「コロナなんか関係ありません」
草介は突き放すように言った。
「コロナのせいにしたらコロナが迷惑します。自分たちが悪いんです」
実知はポカンと口を開けて草介を見つめ、暫く黙った。
「主人は仕事が忙しいし、何もしてくれないし……。学校の先生や不登校の子供の支援グループは親切にしてくれるし、心療内科の先生も一生懸命に診てくれますが、知数の状態はどんどん悪くなっているのです。もう小児精神科のお世話になるしかないのだろうかと、最近は目の前が真暗なんです」
「今までにどんな治療を受けて、その効果はどんなものだったのですか。もっともお聞きしなくてもわかることですが」
草介の口調は、冷静で温かさはあるものの、同時に突き放したトーンが同居する不思議な響きを持っている。近づきにくいと思っている人も多い。
「学校で養護の湯本奈々子(ゆもとななこ)先生に相談して、最初は小児科にお世話になりました。学校の近くの小竹小児科です。お話もよく聞いていただき、問診票も細かく記入しました。心理テストというんでしょうか、その質問票も記入しました。
血液検査や尿検査から始まり、心電図や脳のMRIなど、検査だけで疲れてしまうほど検査を受けたのです。その頃はまだ知数も診療に付いてきてくれたのですが、最後にODテストという新起立試験を受けた頃から全く起きられなくなり、外出もできなくなってしまいました。
その時やっと起立性調節障害つまりODという病気だという診断が下ったのです。立ち上がる時、自律神経の働きがうまくいかないで、血圧が下がり、立ちくらみや気分が悪くなるなどの障害が出て、横になりたくなるのだということがわかったのです。
でも、横になりたいなどというのとは様子が違うように思います。元気だった子供から体力も気力も全部抜き取ってしまったような状態になってしまったのです。恐ろしくて、もう私の人生で初めての危機です。何とか、元の息子に戻すことはできないのでしょうか」
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次回更新は1月24日(金)、21時の予定です。
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