トランシーバーの電源を入れるとすぐに馬場島の登山指導センターからの鬼島のコールサインの呼びかけを傍受した。
鬼島はすぐに応答し、急変した現状を報告した。鬼島、川田の二名が救助に向かい、墜落した一名を確保、もう一名は墜落の際に頭を強く打って既に死亡、そして、救助用のロープが落石によって切断。
「わかりました。その場所から登り返せますか。どうぞ」と無線機を通じて馬場島の登山指導センターの山岳警備隊員が聞いた。
「難しいですが、それ以外手がないので登り返します。ところで、いつ頃次の寒気が来ますか?」と鬼島は聞いた。
「最新の予報では、早ければ明日の昼前から荒れ始めますね。明日朝イチでヘリコプターを飛ばします。それから、救助隊も天候を見て上がりますので、くれぐれも無理はしないでください。登り返せないようならそこに留まって。ヘリコプターでピックアップしますから。どうぞ」
「いや、この絶壁ではピックアップは無理でしょう。オーヴァーハング帯の下ですから。少なくとも、ヘリコプターでピックアップできる開けた場所まで今日中に自力で登り返します。どうぞ」
「そうですか、わかりました。確かに鬼島さんなら登り返せますかね。でも、本当に無理はしないように。安全第一で行動してください。我々も天気が回復したらすぐに救助に上がりますから。どうぞ」
「わかりました。急ぎますので、通信終了します。オーバー」と言って、鬼島は無線を切った。
「ヘリコプター、本当に飛べるのですかね?」と川田が聞いた。
「わからん。明日の朝、晴れていれば飛ぶだろうし、悪天が早く来たら無理だろう」鬼島は、手元に垂れているロープを手に取った。
「覚悟してくれ」と言って鬼島は先ほど鬼島と川田が懸垂下降に使った二本のロープの一端を引いた。
【前回記事を読む】今日ヘリを飛ばすのは不可能。救助のチャンスは明日の夜明けから昼前まで。それを逃すと、次のチャンスは4、5日後…
本連載は、今回が最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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