朝からの行軍で消耗し、川田はその場にへたり込みたい気分であったが、鬼島は「何とか着いたな」と言っただけで颯爽とザックに取りつけていたスコップを取り出し、テントを設営するために雪面を整地し始めた。仕方なく、川田も疲れ切った身体を奮い立たせ、ザックからスコップを取り外して整地に加わった。
雪面を平らに固め、その上にドーム型のテントを張った。テントの中に銀マットを敷き、さらに半身用のエアマットを膨らませて二人分を敷いた。テントの中に転がり込む前に、小型のタワシで体中についた雪を丹念に払い落とした。
ウェアに雪がついたままテントの中に入ると、炊事のためのコンロの火や人熱によってその雪は溶けて水となり、夜中に再び氷点以下に冷え込むと、今度はそれらがテントの内側に凍りついてテント全体を凍結させてしまう。身体についた雪までも、マメに気を使わないと厳冬季の山行では命取りになる。
テントに入り込むと、早速コッフェル(山岳用のなべ)一杯に雪を詰め、山岳用のホワイトガソリンコンロに火をつけ、コッフェルを載せた。
行動食のピーナッツを口に放り込みながら、フリーズドライの米と中華丼に、コッフェルで沸かした熱湯を注いだ。下界ではとても食べる気にならないフリーズドライの食事も、山での圧倒的な空腹には美味と感じる。
食事を終えると、また湯を沸かして茶を飲み、横になってコンロの火を眺めながら身体を緩めた。しかし火を焚いているにも関わらず凍てついた外気に触れているテントの側面からはしばしば冷気を感じ、ブルッと身体を震わせた。
「先行パーティーのトレースがあった分、少し早かったな」と、鬼島が言った。
「そうっすねぇ」
川田はコンロの火を見つめながら答えた。