ベッドのかたわらにあるメモ帳にそう書かれていた。京子の妹が午前中に来ていたことも、妻が元気をもらった源かと思えたが、それだけではなかった。
体位変換に関係しない、長期のベッド生活に伴う痛みが、同じ部位に出てきていた。そのために滞留した血の戻りをよくするための傾斜をつけるとか、部分的にベッドの接触部の減圧を図るとか、それぞれの目的に合わせた使い方で、折り畳んだバスタオルを膝の下や、かかとに入れていた。
しかも痛みが出た所は、直接ベッドのマットレスから少し浮かすことで、和らげる微調整も担っていた。リハビリの療法士が来ない日には、私がそれを実行していた。看護師はおむつを替えたあと、本人に痛みの箇所の確認を取り、同じ形に戻すことが多かった。
「それって、股関節じゃなくて左足のかかとが痛くなったってこと?」
左脚が外に倒れて、股関節に痛みが出て、脚全体がO脚状態にくずおれないように、支えることを目的として、枕を入れていた。そば殻の枕は、脚の形に添った高さで凹凸を作り、身体の向きに馴染んだ形で支えてくれていた。転院する前の療法士に私が教えてもらった方法だった。
「看護師サンガ、忙ガシイ。オムツヲ、替エタ後、脚枕ノ凹凸ヲ、手デ作ッテイル、時間ガ、ナイノ」
京子は私がかざしている手元の五十音字表で補足の説明をした。
「それは、そうかもしれないけど」
私は布団をめくって、妻の足を優しく包み込むそば殻枕の役目を確認して、取り去るのが惜しい気がした。