「刑事さんに呼び出されるのは知っていましたから。先ほど電車に乗って学校に来るまでに考えていたんです。先生の最近の様子を。ですがそもそも僕は先生のことをあまり知りません。担任の先生だということくらい。

同じ教室であるからと言っても、他の人のことを知っているのかと言われれば分からないんです。生徒からは確かに慕われているとは思いますが、特にそれ以上に思っていることはありません」

「そうか。ところで、君は学校にくるまでどこにいたんだい?」

「朝、僕はいつも通り起きました。けれど学校に行く気力が湧かなくて叔父と叔母に話して学校を休ませてもらうことにしました。家を出たのは九時十分頃です。そこから駅に向かいました。下関か、角島のどっちかに行こうと思って。駅に着いたのは九時三十分です」

最寄り駅の説明をすると刑事は顎を触って考えている仕草をした。

「その話が本当なら、事件に関与はしていないね」

「先生の家が発火したのはいつ頃なんですか」

「それが言えるわけがないだろう。それに詳しくまだ調べ切れていないしね」

「ですよね」

僕が駅に着いた頃にバス停にいた宮園のアリバイはどうなるのだろう。

「ああ、君の証言の裏付けをしないといけないのだけど、誰か知り合いに会わなかったかな」

アリバイ調べって本当にするんだと頭の奥からそんなしょうもない感想が飛び出ていく。僕の身の上に起きた出来事ではないかのように。映画やドラマでも見ているかのような気さえする。現実に起こった出来事なのか。働かない頭で藤堂刑事の言葉を反芻する。

誰か知り合いに会わなかったか。その誰かはすぐに浮かんできたが果たして警察に話していいものか。しかし躊躇いは一瞬だった。

 

【前回の記事を読む】「まずは君から事情聴取させてもらいたいんだけど」事件が事故ではなく放火になるならば疑われるのは遅刻した僕になる...。

 

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