「君は途中から来て事情を知らないだろうから、簡単に自己紹介から始めよう。私は下関市西警察署の藤堂だ。今日学校に来たのは、と。それは聞いているかな」
あくまでもこちらに渡す情報を最低限にしたいらしい。しらばっくれるにしても、僕は叔母伝てに樹先生が火災に巻き込まれたことを知っているので、ぼろを出しかねない。知っているものは知っていると言うしかない。
「樹先生が火災に巻き込まれたからですね。叔母から電話がありました。先生は大丈夫なんでしょうか」
「現段階では何とも言えない」
答える気はないようで、笑みに狡猾さを滲ませながら机の上で手を組んで椅子に深く腰掛けた。
「大変なことになってしまったね」
僕が何も言わないと判断したのか藤堂刑事は世間話でもするかのように切り出した。困ったように眉を垂らして苦笑いであるがその目の奥で僕を冷ややかに見ている。さっきまで覗かせていた鋭い瞳は潜められている。僕は警戒した。藤堂刑事は顎を引くと穏やかな声色で用件を切り出した。
「先ほど話をした通り、実は何も分かっていないんだ。事故なのか事件なのか。被害者に直接話を聞ければいいんだけど、こんな状況だからね。他の人に聞いて回る他ないんだよ」
刑事はまいったと頭を掻いた。僕が心を開くようにひょうきん者の演技をしているのだと直感的に思う。
「先生に何か変わった様子はなかったかい?」
藤堂刑事の眼が鋭くなる。
「いえ、特になかったと思います」
「即答だな」
藤堂刑事が口角を上げる。僕はシマッタと唇を噛む。やはり警察はこれを単なる事故だと思っていない。一つ呼吸をおいて話を続ける。