幻影が中田に入ってくる。幻影がゴータマの言葉となって語り始める。

「アーナンダがわたくしに詰め寄ってきた。温厚で心優しいアーナンダとは思えない。

『尊師よ、解せませぬ。チュンダの供養をわたしも受けましたが、何故、尊師にだけ病が生じたのでしょうか。尊師の出血を伴った下痢は普通ではありません。あれ程甲斐甲斐しく供養をしてくれたチュンダが、何故、突然、姿を消したのでしょうか。』

わたくしは便意を堪えながらアーナンダを宥めた。〈アーナンダよ。供養してくれたチュンダに感謝しなければならぬ。チュンダの功徳は大きい。さあ、アーナンダよ、クシナーラーへ行こう。〉」

クシナーラーはパーヴァーの西、約20kmのところにあるという。ゴータマは血便を垂れ流しながらクシナーラーに向かうが、20kmの区間で20回以上休んだという。便意を催してのことであろうという。

クシナーラーでゴータマは力尽き、アーナンダに告げる。藪の中の小さな町の郊外であったという。

「アーナンダよ、二本並んだサーラ樹(沙羅双樹)の間に、頭を北に向けて床を用意しておくれ。わたくしは疲れた。横になりたい。」北はカピラヴァットゥの方角である。クシナーラーからカピラヴァットゥまで、直線距離でおよそ80kmであろうか。

アーナンダの設けた床に、ゴータマは右脇を下にして、右脚の上に左脚を重ね横臥した。

ゴータマはここでアーナンダに

「花を撒き音を奏でるなどして盛大な儀式を催すことがブッダを供養することではない。理法に従って正しく実践することこそ最上の供養なのである。」と告げたという。

ゴータマが起き上がることはなかった。アーナンダはゴータマから離れて、一人で泣いたという。

ゴータマはアーナンダを呼ぶ。

  

【前回の記事を読む】ゴーダマ・ブッダが亡くなったクシナーガル。その遺跡公園には身長約6mという、巨大な、ゴータマの涅槃像があった。

 

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