老人は一口水を飲むと、弱々しい声で雲海からこの島にやって来た旅人だと言い、力のない手でラ・エンカに剣を渡した。その手から薄い青いオーラのような物が煙のように漂っているのが見えた。
老人は、声を振り絞りラ・エンカに伝えた。
「こんな私に……、優しくしてくれたお礼にこの剣を授けよう。本当はある人に渡したかったのだが……、叶わなかった……」
「ある人?」
ラ・エンカは聞いた。
「約束したんだ……皇帝と。だがいくら探しても見付ける事は出来なかった……。よいか、この剣は災いを切る剣で、プラーナが多い者でないと、使いこなす事が出来ない……。プラーナが少なければ、私のように、逆にプラーナを吸われてしまう。今は老いぼれた老人に見えるかも知れないが、実際は未だそんな年ではないのだ。だが……、君なら安心だ。大事にしてくれ……」
そう言うと安らかな顔つきで目を閉じ息を引き取った。そこへ遅れて来たアッカトが駆け寄り、ラ・エンカから経緯を聞いた。
あまりにも唐突な事で、二人は剣を大事に持ち帰ったが、剣の事も老人の事もチナンには秘密にし隠していた。
それからしばらくしたある日、アッカトは村の子と遊ぶ約束をして帰ると、チナンに剣術の修行があるから行ってはいけないと告げられる。アッカトは日頃の厳しい鍛練に、うんざりしていたのでつい言ってしまう。
「母親でもないくせに!」
アッカトはそう罵声を浴びせるとチナンの呼び止めを無視し、ラ・エンカの手を引き出て行った。家の近くの岩の間に隠していた剣を持ち気が付くと何故かチナンに行く事を止められていた海岸に二人は辿り着いていた。
二人は今まで雲海を見た事がなかったので、ラ・エンカはアッカトが雲海を見てみたくてここへ来たんだと思っていた。