沖縄編
前進
「ところで沖縄、どう? 前に行ったことあるって言ってたけど、変わらない?」
「うん、綺麗なビルが増えて、高速道路も増えたけど、青い空と海は同じだよ」
「私、沖縄行ったことないから、行ってみたいな。この夏は着任したばかりで忙しいだろうから、冬休みに大輝を連れて行っていい?」
「もちろん。楽しみにしてるよ。それまでになんとか営業所を軌道に乗せたいな。来てみたら、いきなり社員が一人辞めるというので面食らったよ。それでシビックを買ったときのセールスマンの亀井君に連絡を取りたいと思ったんだ。多分、名刺ファイルに入れたと思うので、探してくれない?」
「それでどうするの?」
「ヘッドハントしてみようかなと思って」
「東京で仕事がある人が沖縄に来てくれるかなぁ」という琴音の疑問は僕の疑問でもある。
「僕も難しいと思う。でも声をかけないと可能性はゼロだけれど、声をかければ可能性は少なくともゼロではなくなるよ」
「ちょっと待ってね、探してみるわ」
そう言って携帯を持ったまま走っていく様子が伝わってきた。
「あったわよ。携帯電話と会社の電話の両方書いてある。写メ送るね」
夕方なのでまだ営業所だろう。早速、携帯電話の方に電話してみた。
「はい、マスダオート世田谷営業所、亀井です」呼び出し音1回で本人が電話に出た。
「久しぶり、角野です。元気で頑張ってますか?」
「わぁ、角野さん! お久しぶりです。元気です。角野さんこそお元気ですか?」
「元気かどうか、うーん、イエスオアノーかな」
「どういうことですか?」
「話せば長くなるよ。実は今、沖縄から電話してる」
「休暇でいらっしゃっているのですか?」
「いや。左遷で大阪、そしてさらに沖縄まで飛ばされたんだよ」
「本当ですか? お会いしたときは優秀なセールスマンというイメージだったので、そう言われてもピンとこないです」
「あのとき、亀井君から購入したTYPERも、もうすぐ島流し仲間として沖縄に到着するよ」
亀井君相手ならこんな軽い冗談を言える自分のことが意外だった。亀井君が来てくれれば一緒に頑張れそうな気持ちが強くなった。