違和感

結婚当初、次男を妊娠した時には、長男が生まれた時にお世話になった産婦人科から別のお医者さんに変えるという話になった。トシカツは嫌がった。

「何で何人もの産婦人科の先生に、あなたを診られなきゃいけないのか」と怒って享子を困らせたこともある。人には理解できない感覚だろう。

平均的な男のヤキモチのレベルのことはわからないが、トシカツは嫉妬心、束縛感、独占欲、依頼心が人より多めにある人で、つまり、トシカツは享子がいないと何もできない人間なのだ。享子のことが大好きで大好きでしょうがないのだ。

トシカツにとって、享子はオールインワンなのだ。女房であり、彼女であり、愛人であり、母親であり、兄弟であり、親友であり、家族であるのだ。だからちょっとした空気の違いに敏感に反応してしまうのだろうね。

嫌なことを紛らわすように酒を呑む。胸も痛いが胃も痛くなる、軽く嘔吐する。享子がチラッとこっちを見る。今度は芝居も入れて物凄く音を立てて嘔吐する。まるで心配してほしくて、お母さんの気を引きたくて愚図る子供と一緒だ。

それでも享子は献身的なところもあり、仕事を休んで病院に連れて行ってくれたりもした。しかしトシカツの心の渇きは取れず、優しさ半分冷たさ半分、余計モヤモヤして何か深い森の中でどんどん迷子になっていくような気がしてくる。

そんな中、2016年2月に義理の親の井口家から「今年の結婚記念日は、私たちからプレゼント」的に、一流のホテルの食事に招待された。

バイキング形式なのだが、さすがに名の通った一流のホテルだけあって、鰻、お造り、カニ、寿司、和牛、などなど食べ放題。それこそ「食の宝石箱やー」と叫びたくなるものばかり。

トシカツも子供たちも大喜びで、あれもこれもと大騒ぎで楽しんでいた。しかし享子はそんなに楽しそうではない。

日帰りだけど温泉付きメニューである。温泉につかり、その後ベタな話だけど、温泉といえば、やっぱり卓球。トシカツは子供たちに誘われるままに卓球をした。