トシカツの90キロ近い体には、床に落ちた卓球の球を拾うとか、かがむという動作さえ3回目くらいできつくなる、お腹をぶよぶよさせながら、ハーハーと言っては、汗だくになる始末なのだ。
今の生活に満足して「のほほん」と胡坐をかいて、呑んだくれでスキだらけの、怠惰なだらしない生活をしている証拠なのだが、まぁよくいえば幸せだった証なのかな。
そんなトシカツ豚を見ながら享子も「ハーッ」と、ため息をつく。だが問題は享子の「心ここにあらず」である。
結果論でいえば、もうこの頃から享子の心の中には「何か」が入っていたのだろう。そんな途方に暮れた享子の顔を見ているだけで、トシカツの胸は張り裂けそうに辛くなっていった。
次の日あたりから、卓球での自己確認からの自己嫌悪もあり、トシカツの食欲がなくなりだした。あまり食べられなくなってきた。しかし食欲不振もダイエットにはもってこいだった。
トシカツは痩せて享子の気を引きたいとも思った。そのせいか、1か月で体重が10キロ痩せた。本人は10キロも痩せた、凄いことだ、と自慢げに「どう?」と享子に言い寄るが何の反応もない。
確かに数字で10キロ痩せたと聞けば「オー」って思うが、体が軽くなったり見えない肉が落ちたり、本人にしてみれば凄いことなのだが、実際88キロが78キロになっただけで、他人からしてみれば見た目もそんなに変わっていないのである。
つまり本人の感覚と周りからの見た目には、かなり大きなギャップがあるのだ。
後日、血肉削るトシカツVS享子の対決でトシカツはさらに20キロ痩せ、58キロを経験した時、あの時の10キロ痩せの自慢が滑稽に思えてくる。しかし、享子の「心ここにあらず」。しかも家庭にもあらずが見る見る幅を利かせてきた。
享子の心はどこにある? 他に好きな人ができたのか? トシカツの心の中に闇の種が育ち始めていく。
ジェットコースターがカタカタカタと不気味な音を立てて登りだす。カタカタカタ。これが長ければ長いほど高度もスピードも増すのだが、後は身を任せるだけである。
それを踏まえてこれからのストーリーに付いてきていただきたい。もはや途中で降りることもできない、ノンストップな展開が待ち構えていた。
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次回更新は11月30日(土)、22時の予定です。