ザ・バサラ

この辺りまで来ると山下の城下町がよく見渡せる。その向こうには長良川の清流がはっきりと見え、その先に伊吹山が見渡せる。この地に信長は居館を築いた。山頂に天守も造り、行き来していた。頂上まで馬で行き来できる道が整備されていた。但し殿以外は特別な用が無い限り歩いて行き来していた。

居館の形、絵図は残念ながら今も見つかっていない。その地を訪れたポルトガルの宣教師フロイスが書き残した記述しか手掛かりがない。悠子はそれを頼りに居館の解明に立ち向かうことになった。 

「優くん、フロイスの記述についてまとめたものはあるの」

悠子は優にたずねた。

優は自信あり気に喜ばしい顔色で答えた。

「信長の居館については永禄十二年の完成です。永禄十年までは岐阜城を居館としています。その頃山科言継も来岐して日記に残していますが、フロイスの記述が一番詳しく書かれています。簡略にまとめてみました」

《ポルトガル宣教師フロイスが記述した信長公居館》

居城の入口は驚くべき大きさの石の壁が取り囲んでいた。

第一の内庭には劇場風の建物がある。広い石段を上るとゴアのサバヨより大きい広間に入る。その広間に前廊と後廊がありそこから市内が一望できる。

絵画と塗金で作られた屏風で飾れた美しい部屋が二十ある。はなはだ巧妙に造られていて、終わりかと思うところに部屋があり、さらにその後ろに第二の部屋が造られてある。四つ五つの庭園があり池がありきれいな魚が泳ぎ白砂があり池の縁にある岩の間に美しい草木や花が咲いていた。

二階は奥方の部屋が幾つかあり一階よりさらに美しく造られている。三階からは市内が一望できる廻り縁が造られている。はるか彼方の山々が見渡せる。そこに信長公の居室がある。その階から茶室につながる廊下が設けられていた。

「以上がフロイスの記述の要点です」

「細かく観察しているわ。でもこれだけではとても居館の再現は無理ですね。

また館長と相談してみましょう」

ということで館長とここからの進め方について協議した。

「いよいよここからが本番だ」

館長はきびしい顔で話を続けた。