「なんつーか。いつもと違う」

「何が?」

「顔」

「あっ」

整形メイクをしたままだった。普段、父と顔を合わせるときはきまって、すっぴんなのだ。父が休日で家にいるときも、わたしは化粧をしないことにしている。

「いつだったか、千春は母さんのようにキレイな女性になりたいと言って俺に化粧品をねだったことがあっただろ。それからたまに化粧品を買ってあげているのに全然化粧っけがないから、どうしたのかなあと思ってたんだが……ようやくそのときがきたんだな」

「そのときって?」

「女が本格的に化粧に目覚めたってことは、アレだろ」

父は下卑た笑みを浮かべた。

「男」

残念ながらハズレである。亡き姉の復讐計画を実行中だなんて、わかるわけないか。

「でもちょっと変だぞ」

「ヘン? どこが」

「顔に決まってるだろ」

「えっ」

「恋するのはいいんだが……濃いぞ」

それだけ言うと、父は寝室に入った。タメがあったのはダジャレを言おうかどうか迷ったのだろう。

ん? 濃い? 

自室に戻り、すぐさま鏡を見た。

濃い……。

わたしの脳裏を、一抹の不安がよぎった。

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