借金地獄アメリカの破壊

ブッシュの政権中、債務の対GDP比率は60パーセントの限度を超えてしまった。エコノミストはこの限度を警戒ラインと考える。

60パーセントレベルとは欧州連合を統治するマーストリヒト条約では統一EUの財政政策において許容される最大限度である。

リチャード・ダーマン率いるブッシュのアドバイザー達は、民主党が多数派を占める下院において、対立する財政政策の優先度を調整するために予算の妥協案で合意する必要があった。

民主党は支出削減と社会福祉改革を含むパッケージに増税を入れることにこだわった。ブッシュはそれに同意し、共和党首脳から支持を得た。しかし彼は共和党の選挙民からの支持を失った。

1990年ニューヨークポスト紙は見出しにこう書いた。

「私の唇を読んでくれ。嘘ついちゃった」

慎重な財政政策の観点からはブッシュ41代の行為は正当化される。債務の対GDP比率は当初上がったが、その後少しずつ下がり始め、重要な60パーセントレベルへ向かった。

彼の政策は経済としては健全なものだったが、政治的には滅茶苦茶なものだった。ブッシュは1992年の選挙でビル・クリントンに敗れるが、これは彼の増税無しの約束を破ったことへの選挙民の不満によるところがある。野獣を飢えさせるのはうまくいった。

アメリカは債務の対GDP比率を下げる路線へ戻った。ブッシュ41代にとっては不運であったが、野獣は彼の再選のチャンスを食い尽くした。新しい大統領ビル・クリントンは今度はレーガンの野獣を飢えさせる政策に取りかかる必要があった。

クリントンはこの12年間で初めての民主党大統領であった。その前の民主党大統領はジミー・カーターで財政的には保守的な南部の知事でテクノクラートだった。急激なインフレとドルの崩壊に至りそうな下落を目前にしたカーターにとって、支出の選択肢は非常に限られていた。

カーターの前は共和党がホワイトハウスを8年間独占した。民主党の最後の大浪費家はジョンソンで、1969年に退いた。

リベラル派民主党員は1世代、すなわちジョンソンからクリントンまでの24年間、ルーズベルト、ハリー・トルーマン、ジョンソンの時のような巨額の社会的支出プログラムを蘇らせてくれるチャンスを待ち望んでいた。

クリントンなら巨額支出が戻ってくるというリベラルの願望を叶えてくれそうな人物だった。彼らはすぐに失望することになる。